☆作品投稿☆「サツバツナイトガスライト(上)その8」☆短編☆


「そうだ、アイサツがまだだったな。俺の名は陽ノ下 アキト。お前は?」

徐に攻撃を止めたアキトと名乗る男。だが、アカリにとってその名は聞いてはならないものだった。
「えっ」と再び思わず声が出る。
アカリはその名前をよく知っている。遥か昔の出来事だ。今は離れ離れとなってしまったが、幼少の頃からずっと一緒だった幼馴染もその名前だった。
それだけならまだいい。同姓同名は確率は低くともあり得るからだ。
だが。
眼前の彼は、よく知る彼の面影が大きく残っていた。
そしてその動揺は現在の関係性において致命的な隙でしかなかった。
「隙だらけだッ!!」
容赦のない飛ぶ斬撃。その狙いは首。アカリはとっさにクナイで相殺するが、少し遅かったのか、余波で自身のフードが脱げ、アカリの素顔を見せることになった。
「………アカリ」
「ん?」
「私の名前よ」
「あぁそうかい」
「聞き覚えは?」
何故、男ーーーアキトと名乗るサムライのアイサツに応じたのだろうか。サムライが名乗るのは当然として、ニンジャが名乗る義理はない。
もしかしたらアカリは何かを期待していたのかもしれない。
「………! おいまさかアンタ」
アキトは何やら動揺し、一瞬の隙を生んでしまう。
今度はこちらの番とばかりに、アカリは光学グレネードを床に投げた。その反応を片目で見ながら。
破裂。そして閃光。
その威力は人外じみた身体能力を持ったサムライですら、思わず目を瞑るほどだ。
グレネードの効果が切れると、アキトは部屋を隈なく見渡す。
そこにアカリの姿は、もちろんない。
「………あのじゃじゃ馬が、なぁ」
その声は、やけに明瞭に響いた。